いなずまササラハバキ

岡崎体育に首ったけ

宇田川ルサンチマン

私は大学時代に3年ほど、地元の喫茶店でアルバイトをしていた。ポジションはホール係で、お客様の元までコーヒーを持っていったり、「2名様禁煙席でお待ちでーす」と喚きながらテーブルを拭く仕事だ。
 
神社やら競馬場やらパチンコ屋が近い土地柄も相まって、アルバイト先の客層は地元のジジババ、もといご年配の方がメインだ。それほど地価が高いエリアでもないので、なんて言うかまあ、そこそこジジババ感の強いお客様が多かった。
 
お会計の時に「コーヒーだけで600円もするのね!高いわあ〜もう来ないわよ!」と言いながらスタンプカード(既に3,4個のスタンプが押されていた)を出してくるオバサマやら、
すでに他所で飲んでからベロベロになって入ってきて「ここビールないの?!」とか聞いてくるオジサマやらは、日常的な光景だった。
 

 

 
オジサマオバサマ方は生き急いでいらっしゃるので、怒りの沸点も低い。いくら向こうの言い分が理不尽であろうと下手に無礼を働いては、火に油を注ぐ事態となる。すぐ店長呼びたがるし。
なので、常にヘコヘコ「失礼いたしました」「申し訳ございません」と返すのが正解である。
 
 
そんな環境でアルバイトを始めてから、大学の友達と渋谷のインスタ映えする(なんて言葉は在学時には無かった)お洒落カフェに行って、びっくりした覚えがある。
 
一際目を引くのは店員の接客態度だ。
渋谷のお洒落カフェの場合、メイン客層もあまり行儀の良い方ではないのだろうが、店員もそれに合わせるがごとく行儀が悪い。みんなシュッとしてて美形で粒ぞろいなのに、揃いも揃って塩対応。そしてちょっと怖い。
 
まず入店時、めっちゃ嫌そうな顔で出迎えてくれる。注文頼もうとして手を挙げると、めっちゃ嫌そうな顔で来る。
飲み物運んでくる時の顔なんかもう完全に無。
退店時の「ありがとうございましたー」も無。
もはや悟り。
 
私が見る限り、この接客態度が渋谷シャレオツカフェのスタンダードだった。歌舞伎町周辺のよく分からん(変な組織が資本を入れていそうな)カフェバーとかならともかく、渋谷のそこそこ有名なシャレオツカフェがこんな調子なので、当時は面食らった。
 
その中でも、キュレーションサイト等にも度々登場する有名カフェの姉妹店の接客はすごかった。メニューや水をテーブルに置く一挙手一投足の雑さはもはやお家芸の風格すら感じさせるが、
店員のお兄さんが通路を通りしな、私のテーブルのお冷やをひっくり返した時の対応が正に一級品だった。
 
店員さんは「あっ…すいません」という、道端で肩がぶつかっちゃったみたいなテンションで謝ったあと、そのまま厨房までダスター(台拭き)を取りに行った。
そこまではいいんだけど、多分厨房で他のテーブルへの配膳を頼まれたりとかして、そっちの方の対応を優先していて、
結局その店員さんが私のテーブルにこぼした水の対処をしに来るまで、5分以上かかっていた。
 
そのカフェはテーブルの上に紙ナプキンなどという気の利いた物は用意しておらず、店員さんがダスターを持って来るまで、私のテーブルの上はずっとびしょ濡れだった。
他の店員さんに対処を頼もうにも、人手が足りていないのか「少々お待ちください」の一点張り。
店員さんはめんどくせえなあって顔でダスターを持ってきて「すいません〜」って言いながらテーブルを拭いて、私は「大丈夫ですよ〜」というテンプレートな受け答えをした。
それ以来、あのカフェには一度も訪れていない。
 
 
もちろん渋谷にも、心温まる接客をしてくれるカフェは存在するのだろう。
しかし、アンティーク風かつちょっと低めのテーブルの上にキャンドルを置き、可もなく不可もない(強いて言えば不可な)コーヒーを出し、冷凍ホットケーキにクリームと冷凍ベリーを乗せ「パンケーキ」と名付けて供するようなタイプの、
要するに女子大生好みのカフェの接客は、だいたい雑だった。
むしろ「美形の店員がだるそうに接客している」ことに価値を出そうとしてるんじゃないか?ってレベル。
 
と言っても、私の渋谷シャレオツカフェのインプットは最終更新履歴が1,2年前くらいなので、現在の様子は分からない。もしかしたら最近は打って変わって、コールドストーンばりに過剰なハートフル接客がトレンドになっているかもしれない。
というか私のシャレオツ憎しバイアスがかかっていたせいで接客が雑に見えていたのかもしれないし。そしたら本当にごめんなさい。誰も悪くないし私の性格だけが悪いです。
 
 
多分、「暗めの店内で低めのイスに座らされて雑な接客されるくらいならエクセルシオールで良くない?」と思ってしまった私の心の狭さこそが悪であり
そんな些細なノイズを気にも留めず、目の前に広がるお洒落な空間に心をときめかせる女子大生たちこそが正義だ。